We are called "Taurin 1000mg theater". Now we have "Taurin 20XX Project".
タウリン20XXは栃木県宇都宮市の劇団です。楽しい演劇、面白い芝居をお届けします。

ヘレン・ケラー2019、終演!(後編)



さあ、大阪公演のため、宇都宮オトスク公演としては10日間くらいのブランクが空いてしまった。

特にオトスク公演のみに参加する人にとっては練習も舞台も無い、自習のみの時間が本番直前まで続いたわけだ。

で、大阪公演組はというと、長旅の疲れと大舞台が終わった脱力感も相まって、復活に数日かかるほどの疲労に襲われ、あと1週間に迫った宇都宮公演モードにすぐ切り替える事は不可能であった。
ご明察の如く、演出の私がそうだったのである。

水曜日くらいにやっと「ああ、オトスクのこと何かやらなきゃ・・」という気になる。

大阪公演の後、次の練習日はなんと直前の金曜日!しかも人数が揃わず、通しも出来ない。ちょっとしたピンチ!

こんな状況でオトスクでちゃんと芝居の形になったのは役者の皆の衆がちゃんとやっててくれたからなんだろうなと思う。
普段から言っている、「セリフは流れの中で出て来るようにする。そのセリフだけをおさらいしたりしてはいけない」という事をしっかりやっててくれたからであろうと思う。

さて、いよいよ公演前日の土曜日。オトスクホールに入り、色んなことをしなきゃならない日。

仕込みやキッカケ合わせに結構時間を取られるだろうから、通して演じるのはリハーサルの時の一回しかできないだろう。大阪公演用短縮版とは異なり、オトスク版「奇跡の人」は上演時間が約2時間もある。通し稽古は今まで曲がりなりにも何回かはやっている。だが一つの芝居としてきちんと流れができている、というところまでは行ってない。果たして大丈夫なのだろうか?

さて、舞台の当たり付け。大道具の位置や、照明の当たり方などを調整する。それから出演者も舞台に立ってのキッカケ合わせ。

照明のナナロクライターズ 坂本さんは、アルフェージュは今回が初めてである。
オトスクホールの照明装置はLEDなのだが、照明自体も回路数も少なく、お世辞にも演劇向きとは言えない。下見にいらしたとき彼は「どうしよう・・ハハハ(大人はこういう時とりあえず笑うものである)」と悩んでいたのだ。
だが、さすが坂本さん、演劇経験もあるプロである。演劇の照明にとっては逆境だらけのオトスクホールで、シーンに合わせドラマチックに色を作り上げて下さった。

効果は仙台音響の斎藤さんと今回の芝居に夏あたりから参加することになった我がタウリン20XXの新人の一人、お千代である。彼女は宇大の劇研においても役者の他に効果をやっていた経験があり、安心して任せることができる。
効果音楽に関しては、今回はYoutubeでの露出とかを踏まえ、ほとんどの曲をクラシック音楽から選んだ。

キッカケ合わせの時、初めて芝居と同期した照明(+効果音楽)を見ることになる(役者もやっている私は全部客席から見ることはできないが)。演出をやっていて心踊る瞬間でもある。

キッカケ合わせは予定していた1時間では無理で、2時間かかってしまった。
でも何とかその後にリハーサルは出来た。大体のチェックも出来た。場面的にはまだまだの所も多い。出来ればもっとしっかりと作り込みたい場面もいっぱいある。だけど、ここまで来たら出来るだけこの空間に慣れることが大事。そして本番での段取りをしっかり確認することが最優先なのだ。


そして芝居当日。

・・・・・・二回の本番は終わった。

第1回目は芝居の形にはなった。及第点か。が、間が悪い箇所があり、上演時間も少々長めになってしまった。
1回目と2回目の公演の間には時間がなくてダメ出しもろくに出来なかった。
だが不思議なもので「場慣れする」と言おうか、演出が何も言わなくても2回目は1回目で良くなかった所は修正され、間も良くなり、時間も縮まった。


さて、では役者一人一人の演技について、語ってみようか。

まずはヘレン。まおは課題だった表情の変化がホントに良くなった。本番での「言葉というものがわかった時の喜び」の表情。そしてその後の感情の爆発。これは深く観客の心に残ったことだろう。

そして・・・彼女に影響を与えた(であろう)大阪版ヘレン役、ゆかりさんの、とある日の稽古の時のヘレンを忘れることは出来ない。
その日のゆかりさんは何かが憑いているような演技だった。上手いとか下手とかではなく、目が離せないのだ。
サリバン先生ちひろもそれに釣られてノッて演技していて、まあ、ゆかりさんは名誉の負傷を負ってしまうわけだが・・・。でも、あの出来事がまおのヘレンの演技に火を付けたような気がしてならないのである。

そしてサリバン先生、わがタウリン20XXのちひろ。彼女は最初はヘレンの母親、ケートの役をやることになっていたのだ。それが欠員が出たためにサリバン先生の役に。

もちろん常に前向きパワー100%の彼女はそれをチャンスと捉え、20歳の女性の役に真っ向勝負を挑んで見事ものにしただけでなく、常に稽古場を盛り立てて引っ張ってくれた。おかげで私も今回初めてと言っていいくらいに演出をやりながら役に集中することも出来たのである。

そして、セリフを覚えるだけでも大変なあの役に、彼女は新たな命を吹き込むことに成功した。You Really did a pretty good job!!

ケート役の綾さんは久々のお芝居参加だったこともあり、最初はもっと軽い役をやるはずだった。それもお家(アルフェージュ)の事情で大役に。

今回は原作からケートの難しいシーンやセリフをたくさん取り入れた脚本を作っていた。そう、原作ではケートは台詞も多いし難しい役どころなのだ。
だから彼女がまあ本番直前まで四苦八苦していたのは仕方なかったのかも知れない。彼女が初めてケートとして全部のセリフを言えたのが何と大阪公演の本番なのである。それにしても本番に強い人だな、この人は。
オトスクでは第一回目ではちともたつきもあったが、2回目の公演では流れに乗って役を見事に演じきった。

さて、私演じるケラーにとっては先妻との間に生まれた息子、ジミー。そのジミー役のわたる君、彼の演劇初心者とは思えない演技に触れないわけには行くまい。

どこかの劇団の人ですか?と聞かれるほど本番での彼の演技は自然だった。
26歳社会人で仕事もバリバリ、好青年で人当たりも良い彼は、稽古も終盤に近づいた7月頃から急に自然体でセリフを発することが出来るようになってきた。

そして本番までにはジミーの軽い感じも出せるようになった。息子よ、お前がラスゼリで父親に反旗を翻すシーン、あれを一緒に演じていたエヴ役のしのぶは舞台袖に引っ込むや否や感動のあまりむせび泣いておったぞ。

残念ながら彼は仕事で宇都宮を離れねばならない。我が息子よ、今度は故郷石川県で頑張るのじゃぞ!

さて、お次は使用人の女の子パーシー、パーキンス盲学校の盲目の生徒、それにケラー家に女親(バーナ婦人)と遊びに来るわがままな女の子、パトリシア・・という3役を演じたさほ。
中学生で演劇部の彼女は、全くキャラクターの異なる3役をそれぞれ楽しんで演じてくれた。
彼女は練習の中でエチュードなどをこなしていく間に本当に芝居を楽しむ事を覚えていったような気がする。

3役といえば、高校一年生のゴー君もそうだ。
読書好きな彼は、紙に書かれた言葉やアクションが、肉体を伴って立ち上がってゆくプロセスがとても楽しいと感じてくれたようだ。
医師、盲学校の生徒、そしてケラー家の使用人のビニー役まで、舞台初体験とは思えない生き生きとした演技をしてくれ、特にビニー役は大いに役を楽しんでくれた。

大阪版奇跡の人では、アナグノス女校長の声の出演をしてくれた しのぶちゃんは、宇都宮公演では早くからエヴ伯母の役が決まっていた。声だけで演じることには慣れている彼女だが、からだ全体を使って表現できるようになるには多少時間がかかったようだ。
そんな彼女も公演直前くらい迄には余裕を持った演技ができるようになっていったのだった。

さて、きみえさんは忙しい仕事と家庭を両立しながら演出助手とアナグノス女校長とご婦人方のお茶のみシーンに登場するソフィア役をやってくれた。
まるっきり芝居未経験な彼女は体当たりでアナグノス女校長とソフィアの役を演じてくれた。
それだけではない、彼女はスタッフとしても物作りの好きな才能を生かしベビーベッドの組み立て&塗装etc・・もやってくれたのだ。
練習時間が本当に限られていて、なかなか演出助手を上手に生かせなかったのが演出として反省点ではあるが、本当にお疲れ様でした。

中盤くらいから参加の貴子さんは、最初は演劇の稽古に戸惑っているようだった。母親をやりながら仕事を持ちモデルもやっているという彼女は、なかなかセリフが自然にならない。盲学校の先生役とお茶飲みシーンのナターシャをやってもらったが、本番では特に先生の役の時にはとても自然な演技になっていたのだった。

そして・・・タウリン20XXの新人の女の子たち、ユリユリとお千代。盲学校の生徒役。かわいい子には旅させよ、ではないが、タウリンの本公演をいきなりやる前に、公演の雰囲気を味わってもらうにはいいチャンスだとは思っていた。
ユリユリはお芝居初体験。対象的にお千代は高校あたりからずっと芝居には関わっていてスタッフ経験もあるので効果を手伝ってもらった。
ユリユリは盲学校の生徒では一番年下の甘えん坊さん、日本で言えば幼稚園年長さんくらいの年の子の役、お千代は(台本には書かれていないが多分)小学校3,4年生くらいの、しっかりとした、ハキハキ物を言える子の役。
二人とも、しっかりキャラが立っておりましたよ。役者としてだけじゃない、二人ともよく気が利くいい子たち。今度はタウリンで頑張ろうね。

そして、アルフェージュ主宰、ゆかりさん。彼女は宇都宮公演ではバーナ婦人の役だった。さすが原作にはないこの役の生みの親だけあって、文句のない演技だった。

それにしても今回は本当に色々大変な事が多かった。だが、アルフェージュはあの怒涛の旗揚げ公演を思えば、色々起こるのが当たり前なのかも・・という気はする(笑)。・・・とはいえ、いろいろな困難を乗り越えて来た感は、今までで一番かもしれない。

アルフェージュの皆の衆はじめこの公演に関わった皆さん、本当にお疲れさまでした。

(幕)

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